最北島の日々

 稚内から西に60キロメートル、その海上に礼文島が浮かんでいる。利尻富士を望み、一年中野生のアザラシを見ることのできるここは、最北の有人島と呼ばれている。
 この島は特産として、ウニや昆布が名高い。そのため、当地の主な産業は漁業となり、島民の生活は心身共に漁を中心に回ることになる。ウニが漁れる日、外来患者さんは露骨に少ない。診療所にかかる暇もないかのように、海仕事の存在は大きいのである。
 ここでの地域医療実習では、地域医療の内でも一層特殊な離島医療を肌身で感じることができる。大病院と地続きでないことから、外界への搬送は容易でなく、でき得る限り島内での完結を目指している。急性虫垂炎の患者さんに遭い、1年に2、3回ほどという緊急手術に立ち会えたのは貴重な経験かもしれない。フェリー搬送の任に就いたのも刺激的な体験であった。行き場のない船上で、医師と呼べる者は自分しかいない、その緊張感―。
 このひと月で感じたのは、地域医療とは一口に云うが、いずれの地域にもその地域なりの医療があり、一つとして同じものはないということである。地域医療には味わい深さがある。

(柴田 健太郎 記)

 

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