婦人科

診療科紹介

 婦人科では良性疾患から悪性疾患、感染症、生殖医学、女性医学まで幅広い分野に対応しています。特に子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなど婦人科悪性腫瘍に関しては、婦人科腫瘍専門医2名が細胞診専門医でもあり、診断から治療までの一貫した診療を行なっています。また、子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜ポリープなどの良性疾患では、腹腔鏡技術認定医のもと、腹腔鏡や子宮鏡による内視鏡下手術を積極的に取り入れています。

基本方針

 当科が目指す医療は、多くの経験に基づいた質の高い医療と、患者さんご自身が納得し、選択し、満足できる医療です。当科では、説明に多くの時間をかけます。これは、患者さんやご家族との信頼関係が医療の大前提であると考えるからです。特に、がんやその疑いを告知された時、患者さんやご家族の頭の中は真っ白になることが多いと思います。そんな時、患者さん・ご家族と私たち医療スタッフが情報を共有し、不安を取り除いていくことが大切だと考えています。良性疾患はもちろんのこと、たとえその病気が「がん」であっても、最終目標は社会復帰です。それは、病気になる前の生活に戻ることを意味しています。仕事をしている方は、仕事に復帰することです。そして、治療期間中の生活の質(QOL)が保障されることもきわめて重要なことです。

特徴・特色

 悪性疾患に関しては、診断から手術、術後の治療まで、すべてを当院で行います。エビデンス(証拠)に基づく、治療ガイドラインに沿った医療を基本としながら、患者さんの希望や、年齢・合併症・病状を考慮した最善の医療を提供します。診断と同時に、患者さん、並びにご家族の全人的サポートを行います。また、外科、放射線科、外来化学療法室、緩和ケア内科、がん相談支援センターなどとのタイアップにより集学的医療を行います。一方、良性疾患に対する腹腔鏡手術・子宮鏡手術に関しては、通常の診察日に専門医による外来を設置し対応しています。当科受診をご希望の場合は、かかりつけ医に相談の上、当院の地域医療連携室を通じて予約をお取り下さい。また、ご本人やご家族が直接電話で予約を取ることも可能です。なお、直接受診を希望される場合は、平日木曜日以外の新患外来をご利用ください。受付は午前8:00~11:00となっていますが、事前確認をお勧めします。

地域医療連携室
TEL 018-829-5233(直通) FAX 018-829-5222(直通)

主な対象疾患と治療内容

  1. 子宮頸部異形成(CIN)、子宮頸がん
     子宮頸部上皮内腫瘍3(CIN3:以前の子宮頸部高度異形成/上皮内がん)では、超音波メス(ハーモニックスカルペル®)による円錐切除術を標準術式としており、2019年より入院期間を3泊4日から2泊3日に短縮しました。限局型子宮頸がんでは必要に応じ、卵巣温存手術を施行しています。また、進行子宮頸がんに対しては、骨盤神経温存広汎子宮全摘術または化学療法併用放射線療法を標準とし、初期の大量性器出血のコントロールには子宮動脈選択的抗がん剤動注療法を行っています。2016年4月よりベバシズマブ(アバスチン®)が、2022年9月にはペムブロリズマブ(キイトルーダ®)が進行子宮頸がんおよび再発子宮頸がんに対する化学療法として保険適応となり、標準治療が変わりました。
  2. 子宮体がん
     局所進行子宮体がんに対しては、子宮全摘術とともに、積極的に骨盤・傍大動脈リンパ節郭清術を行っています。比較的予後の良好な高・中分化型類内膜がんの場合、手術中に迅速組織診断を行い、子宮筋層へのがん浸潤の程度を判定し、摘出範囲を決定しています。術後、再発リスクの高い患者さんに対しては、パクリタキセル、カルボプラチンによる予防的化学療法を施行しています。また、再発子宮体がんに対しては、2021年12月に保険適応となったレンバチニブ(レンビマ®)、ペムブロリズマブの併用化学療法が開始されています。
  3. 卵巣がん
     進行がんであっても、初回手術で可能な限りの腫瘍減量手術を行っています。完全切除が可能な場合は、消化器外科と協力し、直腸合併切除や腸管切除を行うこともあります。卵巣腫瘍の場合、術前に良性・悪性の診断や組織型の推定が難しい場合が多いため、病理診断科とのタイアップで術中迅速組織診断・細胞診断を積極的に行っています。さらに最終診断のために、免疫組織染色を駆使し、正確な診断に努めています。また、ベバシズマブなど新規抗がん剤を含む化学療法を積極的に取り入れています。プラチナ感受性再発卵巣がんに対する維持療法として新規に承認されたオラパリブ(リムパーザ®)、ニラパリブ(セジューラ®)もすでに導入済みです。また、これらの抗がん剤使用のコンパニオン診断として、BRACAnalysis診断システム、myChoice診断システムの利用も行っています。これからの卵巣がんに対する薬物療法は大きく変わろうとしています。当院は、2021年に遺伝診療センターを開設し、BRCA遺伝子変異保持者の卵巣癌/卵管癌に対するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の施設認定を取得し、すでに当科で10例以上の手術が行われています。
  4. 子宮筋腫
     子宮筋腫に対しては、ライフステージ、症状、生活スタイルに合わせ、薬物療法や手術療法を提供しています。薬物療法には女性ホルモンの分泌を抑えることにより筋腫の縮小を期待する偽閉経療法があります。一方、子宮筋腫が大きく、過多月経などの症状が強い場合は手術治療を行なっています。また、この二つの治療を組み合わせ、薬物療法後に手術療法を選択する場合もあります。子宮筋腫を手術で治療する場合、①子宮を全摘する方法、②子宮筋腫のみを摘出する方法(筋腫核出術)があります。従来、子宮全摘や筋腫核出術では、下腹部を切開する開腹手術が中心でしたが、当科では腹腔鏡や子宮鏡といった内視鏡下での手術を積極的に取り入れています。侵襲の少ない手術を提供するために、①子宮全摘の場合には、腹腔鏡手術で、②筋腫核出の場合には腹腔鏡手術または子宮鏡下手術で行うことが可能かどうかを十分に検討したうえで、手術方法を決定します。
  5. 子宮内膜症
     子宮内膜症は、子宮内膜が子宮内腔以外の場所(卵巣、子宮筋層内、腹膜など)に発生することで起きる疾患で、お腹の中で炎症や癒着を引き起こし、月経困難や性交痛、排便痛、不妊などの原因となります。卵巣に生じた子宮内膜症は卵巣子宮内膜症性嚢胞、別名:チョコレート嚢胞と呼ばれています(古くなった血液がチョコレート様にみえるため)。チョコレート嚢胞は0.5~1%と頻度は高くありませんが、がん化のリスクもあり定期的な経過観察が必要です。治療法は大きく分けて、薬物療法と手術療法があります。症状や年齢、挙児希望の有無などに応じて、相談をしながら方針を決定していきます。
    ・薬物療法:薬物療法には、主に痛みをおさえるための対症療法と、子宮内膜症の進行を抑えたり、病巣を小さくさせるホルモン療法(低用量ピル、ジエノゲストなど)があります。
    ・手術療法:チョコレート嚢胞に対しては、ほとんどの場合腹腔鏡手術を行っています。年齢や挙児希望によって、嚢胞核出か付属器(卵巣+卵管)摘出を選択しています。術後の再発予防のために、ホルモン療法を行うこともあります。
  6. 月経前症候群・月経困難症
     我慢している強い生理痛や生理前にはじまる体調不良は、ぜひ一度婦人科を受診してください。月経前症候群や月経困難症は、月経時期の女性ホルモンの変化に伴う疾患です。症状には個人差がありますが、月経の頃からはじまる強い下腹部痛や腰痛、腹部膨満感、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、イライラ、下痢、うつ症状などが代表的です。女性ホルモンによって引き起こされる、市販の痛み止め薬では効かない子宮収縮痛や諸症状であり、ジエノゲストなどのホルモン剤、低用量ピルなどによる薬物療法が有効です。漢方薬も併用できます。そして、もし子宮内膜症・卵巣チョコレート嚢胞・子宮腺筋症・子宮筋腫などがある場合には、器質性月経困難症を引き起こしている場合もあり、手術による病変除去が月経痛の治療に有効な場合もあります。器質性月経困難症では、GnRHアンタゴニスト(レルミナ®)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ®)やジエノゲストなどのホルモン剤による薬物療法も選択肢です。当院では器質性月経困難症に対する適正なホルモン療法などに係る研修を受講した医師が、患者さんごとに適切な治療計画を作成し、継続的な医学的管理を行っています。
  7. 良性卵巣腫瘍
     卵巣腫瘍には嚢胞性と充実性があり、良性の嚢胞性卵巣腫瘍のことを卵巣嚢腫(嚢胞)と呼びます。卵巣腫瘍は、無症状の場合が多く、検診などで偶然見つかることがあります。正常の卵巣は2~3cmの大きさです。卵巣腫瘍の大きさが5cm以上の場合、茎捻転が起こりやすくなり、嚢胞性の場合は破裂することもあるため、手術療法を考慮します。良性腫瘍が推定されれば腹腔鏡手術を行ないます。嚢胞性の場合、①腫瘍を含めて卵巣と卵管を摘出する方法(付属器摘出)と、②卵巣の正常部分を温存する方法(嚢胞核出術)があります。どちらの術式を選択するかは年齢、腫瘍の大きさなどを総合的に判断して決定します。一方、充実性腫瘍は付属器摘出が一般的です。

主なクリニカルパス

  およその入院期間 入院診療計画書
良性疾患手術 腹腔鏡  5日間 PDF
良性疾患手術 開腹 11日間 PDF
子宮頸部円錐切除術  3日間 PDF
悪性腫瘍手術 13日間 PDF
抗がん剤化学療法  4日間 PDF
子宮鏡手術  3日間 PDF

その他の特色

  • 患者さんの治療期間中の生活の質(QOL)向上のため、可能な限り外来化学療法を取り入れています。副作用の少ない、短時間で終了する抗がん剤による化学療法は外来で行いますので、午前または午後の数時間で終了します。
  • 婦人科悪性腫瘍手術後に起こりやすい下肢深部静脈血栓症や肺塞栓症の予防に積極的に取り組んでいます。
  • 悪性疾患の場合、治療の初期から緩和ケアチームとタイアップし、患者さん、ご家族の支援を行っています。
  • がん相談支援センターでは、患者さんやご家族のさまざまな相談に対応しています。特に、リンパ節郭清術後の下肢リンパ浮腫予防のため、入院中よりセルフケアの指導を行い、退院後もがん相談支援センターのリンパ浮腫相談窓口を通じ、指導を継続しています。
  • 電子カルテ・クリニカルパスの導入により、手術や化学療法の入院期間短縮と、円滑な診療を進めています。当科の入院化学療法、予定手術の電子カルテ・クリニカルパス導入率はほぼ100%です。バリアンスを参考に臨機応変な変更を行い、各疾患のクリニカルパスのブラッシュアップに努めています。

診療実績

 全手術に占める内視鏡手術の割合は42%です。悪性腫瘍手術は42件で、全手術の21%でした。子宮頸がんに比べ、子宮体がん・卵巣がんが多いのが当科の特徴です。進行子宮頸がんに対しては手術ではなく、化学療法併用放射線療法を行うこともあります。子宮付属器手術は近年、開腹手術から腹腔鏡手術に大きくシフトし、今後もこの流れが継続するものと考えられます。子宮頸部異形成に対する子宮頸部円錐切除術は25件です(表1、2)。

表1.手術内訳

手術名 2017
年度
2018
年度
2019
年度
2020
年度
2021
年度
開腹手術 99 106 117 85 85
 悪性腫瘍手術 40 45 51 38 42
 子宮全摘出 34 44 37 34 31
 付属器手術 16 5 19 4 8
 子宮筋腫核出術 9 10 9 7 4
 その他 0 2 1 2 0
膣式手術 51 50 54 69 29
 円錐切除術 38 39 37 57 25
 子宮全摘術 4 0 2 0 0
 子宮脱手術 2 6 6 0 0
 流産手術 1 0 0 0 1
 その他 6 5 9 12 3
腹腔鏡手術 55 83 53 87 72
 子宮全摘術 0 2 5 21 9
 付属器手術 46 63 41 55 52
 筋腫核出術 6 17 5 7 6
 補助下膣式子宮全摘術 1 0 0 0 0
 子宮外妊娠手術 2 1 1 4 2
 その他 0 0 1 0 3
子宮鏡手術 8 11 6 6 12
合計 213 250 230 247 198

表2.悪性疾患手術件数(子宮頸部上皮内がんなどに対する円錐切除術を除く)

  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
子宮頸がん 4 4 6 3 1
子宮体がん 17 16 21 15 19
卵巣がん 18 23 22 17 21
その他 1 2 2 3 1
合計 40 45 51 38 42

 2021年度の年間化学療法患者数は69人で、入院・外来化学療法患者の延べ人数はそれぞれ317人、137人でした(表3、4)。これには、外来でのオラパリブなどによる抗がん剤内服維持療法が含まれていないため、実際の抗がん剤使用人数はもう少し多いと考えられます。

表3.化学療法患者数

  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
人数 66 61 68 64 69

表4.化学療法延べ人数

  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
入院 310 300 387 279 317
外来 106 104 169 145 137

今後の目標

 婦人科悪性腫瘍の治療分野では、毎年多くの大規模臨床試験が行われており、新しいエビデンスが発表されています。それぞれの疾患の治療ガイドラインも数年に一度改訂され、標準治療が急速に変化していくなかで、常にUp-To-Dateな情報を入手し、治療に取り入れてゆくことが目標です。また、患者さんのQOL向上のため、入院期間の短縮、外来化学療法、緩和ケア、術後リンパ浮腫相談・施術などに、さらに多くの改善を心掛けたいと思います。一方、内視鏡手術に関しては、今後さらに外来を充実し、適応疾患を拡大して手術の必要な患者さんに対応していく予定です。

社会貢献

 講演会などの依頼を適宜、受け付けております。詳細は人事課までお問い合わせください。

 人事課 TEL 018-829-5000(代表)

担当医の紹介

役職名等 氏名 資格等
婦人科部長 大山 則昭 日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医
日本臨床細胞学会細胞診専門医・教育研修指導医
日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・指導医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本産婦人科乳腺医学会乳房疾患認定医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医・指導医
東北ブロック医師臨床研修指導医
がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了
婦人科副部長 富樫 嘉津恵 日本専門医機構認定産婦人科専門医
日本生殖医学会生殖医療専門医
日本産科婦人科学会産婦人科指導医
日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)
日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会技術認定証(産科婦人科)
日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法「専門」コース(Aコース)インストラクター
臨床研修指導医
がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了
医師 並木 竜介

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